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ワンダーガレッジ!

1 : 名無しさん@自己満足    2010/04/29(木) 00:01:57   ID:7O/QStnI 
 季節は、春。
 陽は優しく木々を照らし、桜の花が味気無い歩道を桃色のカーペットに変える。そんな優しい、季節。
 本日は晴天。ゴールデンウィーク。
 花見に出掛ける集団が溢れる中、二人はただ机に向かっていた。部屋の中を支配するのは、ガリガリと響くペンの音。眠たげな眼を擦りながら原稿に向かう青年の名は、狩野豊吉。今年で二十一の暦を迎える彼の職業は、漫画家である。
「……ふぁ」
 同じく、彼の横に腰掛ける少女。美しい黒髪は、彼女なりのお洒落と言う訳ではなく、ただ無精なだけの性格故に腰まで伸びているだけだった。美しさの中に、まだどこかあどけなさが残る彼女は頬に付着したトーンの粕を払おうともしない。
 その細く、しなやかな指が用紙の上を這う。書き慣れた女体の曲線を引き、繁々とそれを眺めると再び手を進めた。
 徐々に浮き上がるその原稿に写るのは、女体、女体、女体――
 狩野豊吉と、風花葵。
 二年前、成年漫画界に彗星の如く現れた奇才、「ガレッジ」とはこの若者二人である。成年漫画に於いて重要視される濡れ場は、やはり大部分のページ数を裂かなくてはならない。与えられた僅かな日常シーンで最大限、ヒロインの魅力を増幅させる技術に長ける豊吉は、所謂原作者である。
 微睡むような表情のまま作業を続ける葵は作画担当。その線は丁寧、且つ独創的。構図一つ一つにも一切の妥協は見られず、大胆さの中に繊細さが見えるその絵は、成年漫画界に於いて大きな称賛を浴びた。
 豊吉は、ちらと時計に目をやった。「ガレッジ」が連載する雑誌、「@ラブ」への入稿が危ういのだ。原因は葵の「構図に納得がいかないからこのページを全部書き直したい」という発言なのだが、豊吉も特にそれに関して不満は無かった。やるなら、全力で原稿に向かわなければならない。
 幼い頃から漫画家を目指していた彼がぶつかった壁を乗り越える術を持つ葵の絵は、彼にとって宝石のように尊く美しい物である。その宝石が更なる輝きを望むのであれば、彼は一切の努力を惜しまぬ心積もりであった。
 同じく葵も、自分の絵を活かしているのは豊吉のストーリーであることを重々理解している。言わば、二人はパズルのような宝石を持ち合わせていた。欠けたピースを埋め合うようなお互いの才能――宝石――を、惜しまなく相棒に、そして原稿に向けている。
 不意に、葵が席を立った。
「豊吉くん、このシーン」
 原稿の一枚を持って歩み寄る葵の姿に、豊吉は切り貼りする手を止めた。葵が指し示す吹き出しに視線を注ぐ。
「『らめえ』より、『……駄目……』の方がいいと思う。真面目な委員長キャラだから、その方が後に喘ぐシーンにも張りが出るんじゃないかな」
「あー、うん。なるほど。それじゃあそうしようか。というか葵ちゃん、台詞はある程度好きに弄っていいよ?」
「それは嫌。私たちの原稿は、常にお互いの全てを知り尽くして、仕上げたいの」
 さいですか、と微笑む豊吉は大きく伸びをして机に向き直る。ここからは休む間も無くなるだろう、所謂修羅場に突入する。一方、葵は机の上に原稿を置いたままフラフラと歩き出した。
 トイレか、それとも珈琲でも淹れに向かったのか。回転椅子を移動させ、台所を見るも葵の姿は無い。しかしトイレのドアを開けるような音はしなかった。
 不穏に思い、豊吉も席を立つ。彼と葵は高校からの付き合いであるが、葵が豊吉には理解不能な行動を取るのは珍しくなかった。まず、葵は一般常識に疎い。その割、性知識に於いては異常な程詳しいのだ。そして何より豊吉の頭を抱えさせるのは、葵は自分の思いのままに動くことである。
 寝ると言ったら寝る、休むと言ったら梃子でも働かない。基本的に仕事熱心である反面、葵は自分勝手な一面も持ち合わせていることを、彼は重々承知していた。
 豊吉が葵を発見したのは、バスルームの脱衣場であった。スライド式のドアを開け放したままであった為、下着姿の葵と豊吉の視線が激しく交差する。
 若干の間の後、葵は平然と脱衣を再開した。豊満な胸を抑え込む下着の拘束を、今にも解き放とうとしている。
「ま、待った」
「……」
 葵はホックに掛けた手を止め、じっと豊吉を見詰めた。顔を赤らめることもなければ、自らの肌を隠そうともしない。
「シャワー浴びるなら、ちゃんとドアを閉めて――というかそれ以前に、そんなことをしてる暇は無いと思うんだけど」
「嫌。シャワー浴びたいの」
「いや、解る。それは解るけど」
「ありがとう。なるべく早く済ませる」
 プツン、とホックが外れる音がしたので、豊吉は葵に背を向けた。彼女には羞恥心という物が無いのかと少し不安になる。よく、この歳まで貞操を保てていたものだと呆れ果て、大きく溜め息を吐いた。
 絶大な人気を誇る「ガレッジ」の二人組は、実は双方男女経験が無いのである。所謂、童貞と処女。
 豊吉も葵も容姿は悪くない、それどころかかなり上等なのだが、この二人の感心はそこに向かなかったのが、不幸と言えば不幸であろうか。
 ――豊吉はもう何年も前から一人の女性、つまり葵にしか感心が持てなかったのだ。日々を共にしつつ、特に付き合っている訳でも無いこの曖昧な生活に悶々としたことも少なくない。
 仕事の都合上、葵は平然と淫語を口にする。その上、このような形で肌を拝むことも多々あった。
「……はぁ」
 それでも葵は平然と脱衣を続け、遂に一糸纏わぬ姿となった。シャワールームのドアを開けた。そして、はたと足を止める。
「……あ、豊吉君。珈琲の豆が切れてたから、買いに行った方がいいかな」
「……いいから、早く入ってください」
 もしここで豊吉が振り向いたとしても、恐らく葵は微動だにしないであろう。それほど、葵の動きは緩慢なものであった。
「はーい」
「なるべく、早くね」
「頑張る」
 そして今日もまた、結局は葵の思い通りに事は進む。シャワーの弾ける水音が微かに、脱衣場にも漏れ始める。豊吉は再び大きく溜め息吐くと、呟く。
「今日も、色々と、修羅場だ――」
 窓の外に鮮やかに舞う桜吹雪を見、彼は苦々しく笑った。


48 : 名無しさん@自己満足    2012/01/17(火) 17:11:11   ID:xHx2FoOI 
謎子
謎の編集者。年齢・経歴・家族構成など全て不明。一人称は「謎子」。「ガレッジ」の編集になった際「新米編集だった」との発言から、豊吉・葵らと同じく20歳前後であると思われる。
当時新米編集者であった謎子は新人である「ガレッジ」の担当に当たるが、このガレッジの莫大な支持を得たため一気にメシウマ状態になった。編集を交代させられないよう仕事には精を出しているようだが、視察という名目で遊びに来ているのが現状である。
本人曰くフルネームは「謎 謎子」。奔放で掴みどころの無い性格だが、葵とは妙にウマが合う。
ガレッジの単行本は一巻に付き十冊以上購入している。また、大のゲーム好きであるが一緒にプレイする相手が居ないのが不満らしい。
彼女の実家は様々な説があり、大金持ち説、大きな病院説、普通の家庭説、石油王説、テロリスト説など100以上あり、謎子曰く「この中に正解がある」とのこと。
空腹が極限に達すると不思議な謎子ダンスを踊る。




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